日本の石油・LPガス備蓄基地

国家備蓄10基地+LPガス備蓄5基地 — エネルギー安全保障の要

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苫小牧東部
むつ小川原
久慈
秋田
福井
菊間
白島
上五島
串木野
志布志
神栖(LPG)
七尾(LPG)
倉敷(LPG)
波方(LPG)
長崎福島(LPG)
Natural Earth を加工

日本の石油・LPガス備蓄制度

米国の戦略石油備蓄
米国の戦略石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve)施設。日本もJOGMEC国家備蓄基地10カ所で約4,000万kLの原油を備蓄しており、エネルギー安全保障の中核を担っています。
画像: ENERGY.GOV / Wikimedia Commons (Public domain)

日本は原油の99.7%を輸入に依存しており[1]、中東情勢の緊迫や海上輸送路の途絶に備えた国家備蓄がエネルギー安全保障の要となっています。1975年の石油備蓄法制定以降、全国に備蓄基地が整備され、2004年からはJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)が一括管理しています[2][3]

備蓄は国家備蓄(政府が直接保有)・民間備蓄(石油会社に義務付け)・産油国共同備蓄の3層構造で運用されています[4]。内訳は時期により変動しますが、国家備蓄が約90〜110日分[4]、民間備蓄が約70〜90日分で、合計約200日分以上を確保しています[4]。IEA(国際エネルギー機関)の加盟国義務である90日分を大幅に上回る水準となっています。

10か所(合計約4,600万kL)[5]
国家石油備蓄基地
5か所(合計約150万トン)[6]
国家LPガス備蓄基地
約200日分以上[4]
石油備蓄日数(国家+民間)

3つの貯蔵方式

方式概要代表基地
地上タンク浮き屋根式の大型タンクを地上に設置。最も一般的苫小牧東部・むつ小川原・福井・志布志
水封式地下岩盤タンク地下の岩盤を掘削し、地下水圧で原油を封じ込める。地震・津波に強い久慈・秋田(一部)・菊間・串木野
洋上タンク二重船殻の大型貯蔵船を沖合に係留。用地不要白島(北九州沖)・上五島(長崎沖)

水封式地下岩盤タンクの仕組み

水封式地下岩盤タンクは、地下数十mの堅い岩盤を掘削して空洞を作り、そこに原油やLPガスを貯蔵する方式です[7]。空洞の周囲には常に地下水が岩盤の亀裂を通じて浸透しており、この地下水圧が原油の漏洩を防ぐ「水の壁」として機能しています。原油は水よりも軽いため、水圧が原油を空洞内に押し留める仕組みになっています。

構造 地下岩盤の空洞 深さ30〜50m
封じ込め 地下水圧 水が油を押さえる
利点 耐震・耐津波・低火災リスク

地上タンクに比べ、地震に極めて強く火災リスクが低いことが最大の利点です。2011年の東日本大震災では久慈基地(岩手県)で排水タンクが流出し1基のスラッジタンクが傾斜するなど表面施設に被害が生じましたが、地下岩盤部分は損傷を受けず、地下備蓄の耐災害性が実証されました。また地上の土地を有効活用でき、景観への影響も少ないという特徴があります[7]

国家石油備蓄基地(10か所)

基地名所在地貯蔵方式備蓄容量完成年
苫小牧東部北海道苫小牧市・厚真町地上タンク(浮き屋根式55基)約640万kL[8]1990年
むつ小川原青森県六ヶ所村地上タンク(浮き屋根式51基)約570万kL[9]1985年
久慈岩手県久慈市水封式地下岩盤約175万kL[7]1993年
秋田秋田県男鹿市地上タンク+地下岩盤約450万kL[7]1995年
福井福井県福井市・坂井市地上タンク(浮き屋根式30基)約340万kL1986年
菊間愛媛県今治市菊間町水封式地下岩盤約150万kL[7]1994年
白島福岡県北九州市沖洋上タンク(貯蔵船8隻)約560万kL[5]1996年
上五島長崎県新上五島町沖洋上タンク(貯蔵船5隻)約440万kL[5]1988年
串木野鹿児島県いちき串木野市水封式地下岩盤約175万kL[7]1994年
志布志鹿児島県東串良町・肝付町地上タンク(浮き屋根式43基)約500万kL[10]1993年

国家LPガス備蓄基地(5か所)

LPガス(プロパン・ブタン)は家庭用・タクシー用・化学原料として重要で、2005年以降に専用の国家備蓄基地が整備されました[6]

基地名所在地貯蔵方式備蓄容量完成年
神栖茨城県神栖市地上低温タンク約20万トン[6]2005年
七尾石川県七尾市地上低温タンク約25万トン[6]2005年
倉敷岡山県倉敷市水封式地下岩盤約40万トン[6]2013年
波方愛媛県今治市波方町水封式地下岩盤約45万トン[6]2013年
福島(長崎)長崎県松浦市福島町地上低温タンク約20万トン[6]2005年

倉敷・波方の地下岩盤方式は世界最大規模のLPガス地下備蓄施設として知られています[6]

備蓄制度の3層構造

第1層 国家備蓄 約90日分
第2層 民間備蓄 約70日義務
第3層 産油国共同備蓄 サウジ・[UAE](/rule/middle_east/united_arab_emirates/)等
合計 約200日分以上 IEA基準90日を超過

歴史的背景

出来事
1973第1次石油危機。原油価格が4倍に高騰し、日本経済に深刻な打撃
1975石油備蓄法制定。国家備蓄制度の開始
1978第2次石油危機。備蓄の重要性が再認識される
1985むつ小川原基地完成(最初の大規模基地)
1988上五島基地完成(日本初の洋上備蓄)
2004JOGMEC設立。全国の国家備蓄基地を一括管理に移行
2005LPガス国家備蓄基地3か所(神栖・七尾・福島)が完成
2011日本大震災。民間備蓄義務日数を70日→45日に引き下げ、市場への石油供給を確保
2013倉敷・波方のLPガス地下岩盤備蓄が完成(世界最大規模)
2022ロシアウクライナ侵攻を受け、IEA加盟国と協調して国家備蓄を放出。日本は約1,500万バレルを供給[11]

緊急時の備蓄放出実績

国家備蓄は「貯めておくだけ」ではなく、実際に危機時に放出された実績があります。

  • 2011年 東日本大震災: 製油所の被災により供給が逼迫しました。政府は民間備蓄義務日数を70日から45日に引き下げ、事実上の備蓄放出を実施しました。久慈基地(水封式地下岩盤)では排水タンクの流出やスラッジタンクの傾斜などの表面施設被害が生じましたが、地下岩盤部分は損傷なく、地下備蓄の耐災害性が実証されました。
  • 2022年 ウクライナ情勢: ロシアウクライナ侵攻に伴う原油価格高騰を受け、IEA加盟国と協調して日本は国家備蓄から約1,500万バレルを放出しました[11]。これは日本のエネルギー安全保障政策における大きな転換点となりました。

備蓄インフラの将来 — GXとの接点

既存の備蓄インフラは、カーボンニュートラル時代においても活用が検討されています。地下岩盤の大規模空洞は、将来的に水素やアンモニア、CO2(CCS)の貯蔵施設への転用が技術的に可能とされており、京葉コンビナートのGX推進協議会などで具体的な検討が進んでいます。石油備蓄基地が「化石燃料の貯蔵庫」から「次世代エネルギーのインフラ」へと役割を転換する可能性を持っています。

関連企業の時価総額マップ

石油・LPガスの備蓄制度に関連する上流開発・元売り・LPガス企業の時価総額を可視化しています。

エネルギー

※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
■ 石油開発・上流
INPEX 国内最大の石油・天然ガス開発企業。オーストラリア・インドネシア・東南アジアでの上流開発を主力。原油の安定供給を通じて国家備蓄の重要な供給源。
石油資源開発(JAPEX) 国内の石油・天然ガス開発で第2位。秋田油田などの陸上資源開発に強み。地下貯留技術の知見はCCS(二酸化炭素回収・貯蔵)事業へも展開中。
■ 石油元売り
ENEOSホールディングス 国内最大の石油元売り。2019年に昭和シェル石油と経営統合(2020年にENEOSホールディングスへ社名変更)。製油所で備蓄原油を精製し石油製品を供給。民間備蓄制度の最大の担い手で約200万kLの備蓄を保有。
出光興産 国内第2位の石油元売り。徳山製油所・昭和四日市製油所が主力製油所。民間備蓄制度における主要な責任企業として約150万kLの備蓄を保有。
コスモエネルギーHD 国内第3位の石油元売り。堺製油所・四日市製油所を運営。UAE国営石油(ADNOC)が筆頭株主で中東との関係が深い。民間備蓄の重要な担い手。
富士石油 袖ケ浦製油所(143千BD)を唯一の製油拠点として保有。旧アラビア石油の流れを汲む独立系元売り。関東の石油製品供給を担う。
■ LPガス事業
岩谷産業 LPガス国内最大手。国家LPガス備蓄制度の民間備蓄を担当する主要企業。水素ステーション・酸素・窒素などのガス販売も事業の柱。エネルギー総合企業。
■ 商社(国際LNG・石油調達)
三菱商事 大手総合商社。国際LNG・石油プロジェクトの主要投資家としてオーストラリア・中東などでの権益を保有。備蓄原油の安定調達・供給ネットワークで重要な役割。

参考文献・出典

  1. [1] 資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/
  2. [2] JOGMEC「石油・天然ガス備蓄事業」(2024年)https://www.jogmec.go.jp/activities/stockpiling/oilgas/reserves/index.html
  3. [3] 経済産業省 資源エネルギー庁「令和6年度から令和10年度までの石油・LPガス備蓄目標(案)について」資源・燃料分科会(2024年)PDF
  4. [4] 資源エネルギー庁「石油備蓄の現況」(2026年3月17日)PDF
  5. [5] JOGMEC「国家石油備蓄方式の紹介」https://www.jogmec.go.jp/library/stockpiling_oil_066.html
  6. [6] JOGMEC「石油ガス備蓄事業の概要」PDF
  7. [7] JOGMEC「備蓄の方式」https://www.jogmec.go.jp/activities/stockpiling/oilgas/reserves/reserve-system.html
  8. [8] 苫小牧石油備蓄株式会社「会社概要」https://www.tomabi.co.jp/company/outline.html
  9. [9] JOGMEC「むつ小川原国家石油備蓄基地」https://www.jogmec.go.jp/about/domestic-offices/reserve-base/mutsu-ogawara.html
  10. [10] 志布志石油備蓄株式会社「施設概要」https://www.shibushi.co.jp/facility/
  11. [11] 経済産業省「IEA加盟国による石油の協調備蓄放出として民間備蓄義務量の追加引下げを行います」(2022年4月15日)https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220415004/20220415004.html