日本のミシン産業

ブラザー・JUKI・ジャノメ・ペガサス — 世界トップ5の4社を占める精密縫製機械産業

最終更新: 2026年6月30日

日本のミシン産業の概観

工業用ミシン
工業用ミシン。アパレル・自動車内装・靴・鞄などの量産縫製を支える精密機械で、ブラザー・JUKI・ジャノメ・ペガサス・ヤマトなど日本メーカーが世界市場を主導します。
画像: Wikimedia Commons

ミシン(縫製機械、Sewing Machine)は布や革を縫い合わせる精密機械で、家庭用と工業用に大別されます。世界のミシン市場は約70~75億ドル規模(2024年推計)[1]で、世界シェア上位5社のうちブラザー工業・JUKI・ジャノメ・ペガサスの4社を日本勢が占める[2]、極めて日本集中度の高いニッチ産業です。とりわけ工業用ミシンはJUKIが世界1位、家庭用ミシンはジャノメが世界1位、環縫い(オーバーロック)ミシンはペガサスが世界1位と、サブカテゴリごとに日本企業が首位を占めます。

4社
上場主要メーカー(ブラザー・JUKI・ジャノメ・ペガサス)
70~75億USD
世界ミシン市場規模(2024年推計)[1]
4 / 5
世界トップ5のうち日本勢の社数[2]

主要メーカーの比較

企業証券コード設立本社特徴
ブラザー工業64481908創業/1934法人化[3]愛知・名古屋市瑞穂区ミシン世界シェア1位。家庭用コンピュータミシン・刺繍ミシンに強み。現在は売上の大半をプリンタ・複合機が占める総合精密機械メーカー
JUKI64401938[4]東京・多摩市工業用ミシン世界1位。世界で売られる衣料の約3割の生産にJUKI製ミシンが関わるとされる[5]。電子部品実装機(SMTマウンタ)も主力
ジャノメ64451921[6]東京・八王子市家庭用ミシン世界1位。2021年に蛇の目ミシン工業から社名変更。家庭用コンピュータミシン・卓上ロボットも
ペガサスミシン製造62621914創業/1959改称[7]大阪・大阪市福島区環縫い(オーバーロック)ミシン世界1位。ニット・カットソー縫製向け工業用専業
ヤマトミシン製造非上場1927[8]大阪・大阪市北区YAMATOブランドで工業用環縫い(オーバーロック・カバーステッチ)専業。高機能ニット縫製機に強み(非上場メーカー)

家庭用と工業用の構造

ミシン産業は「家庭用」と「工業用」で市場特性が大きく異なり、強い日本企業も分かれます。

区分主な縫い種別主要顧客強い日本企業
家庭用ミシン本縫い・電子・コンピュータ・刺繍一般消費者・手芸・ホームソーイングジャノメ(世界1位)、ブラザー、JUKI
工業用(総合・本縫い)本縫い・自動機・縫製ラインアパレル工場(アジア・中南米)、自動車内装、靴・鞄JUKI(世界1位)、ブラザー
工業用(環縫い・オーバーロック)オーバーロック・カバーステッチ・安全縫いニット・カットソー縫製ペガサス(世界1位)、ヤマト
工業用(刺繍)多頭式刺繍刺繍・装飾縫製タジマ工業、バルダン(いずれも非上場、世界大手)[9]

工業用ミシンは8割以上が海外で販売され[5]、アパレル生産が集中するアジア(中国ベトナムバングラデシュなど)が最大市場です。家庭用は米国欧州の手芸需要が大きく、近年はコロナ禍のホームソーイング需要で一時拡大しました。

海外メーカーとの比較

メーカー強み
ブラザー工業JP 日本ミシン世界1位、家庭用・刺繍
JUKIJP 日本工業用世界1位
ジャノメJP 日本家庭用世界1位
伸興(Shing Ling)TW 台湾世界4位、家庭用OEM大手[2]
ペガサスJP 日本環縫い世界1位
SVP Worldwide(Singer / Husqvarna Viking / Pfaff)US 米国老舗Singerなど家庭用ブランド群
BERNINACH スイス高級家庭用ミシン
Jack / 杰克CN 中国工業用で急成長、中低価格帯

かつて家庭用ミシンの代名詞だった米国Singer(1851年創業)は経営再編を経てSVP Worldwide傘下となり、現在は日本中国勢が製造を主導する構図に変わっています。

日本でのミシンメーカーの地理的特徴

本社は東京(多摩・八王子)・愛知(名古屋)・大阪の3拠点に分かれ、量産工場の多くは人件費の低いアジア(中国・ベトナムなど)へ移管されています。

企業本社主な国内拠点/生産
ブラザー工業名古屋市瑞穂区国内マザー機能(愛知)+ベトナム・中国でミシン量産
JUKI東京・多摩市大田原事業所(栃木)+中国・ベトナムで量産[4]
ジャノメ東京・八王子市八王子(本社・開発)+台湾・タイで生産
ペガサスミシン製造大阪市福島区子会社の美馬精機(徳島・上板町)ほかで製造[7]
ヤマトミシン製造大阪市北区国内+海外生産拠点

ペガサスとヤマトの本社がともに大阪にあるのは、戦前から大阪が繊維・縫製機械の集積地であった歴史を反映しています。

なぜ日本がミシンで強いのか

  • 精密機械加工の蓄積: ミシンは高速で布を送りつつ針・ルーパーを同期させる精密機構で、日本の歯車・カム加工技術が支える
  • 戦後の輸出産業としての発展: 1950~60年代、ミシンは日本の代表的輸出品の一つで、量産技術と品質で世界市場を獲得した
  • サブカテゴリ専業化: 環縫い(ペガサス・ヤマト)、刺繍(タジマ・バルダン)など、特定の縫い種別に特化した専業メーカーが世界首位を維持
  • 電子化・自動化への対応: コンピュータミシン・自動縫製・電子部品実装機(JUKI)など、メカトロ技術で付加価値を高めた

世界ミシン市場シェアの可視化

世界ミシン市場 メーカー別シェア(推定)

※ シェアは業界調査を基にした推定値[2]。世界トップ5のうち日本4社(ブラザー・JUKI・ジャノメ・ペガサス)が大きな比率を占める。

日本のミシンメーカー時価総額マップ

※ ブラザー工業の時価総額はプリンタ・複合機など非ミシン事業を含む連結値。

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
ブラザー工業6448ミシン世界シェア1位の総合精密機械メーカー。家庭用コンピュータミシン・刺繍ミシンに強みを持つ一方、現在は売上の大半をプリンタ・複合機が占める。
JUKI6440工業用ミシン世界1位。世界の衣料生産の約3割に関わるとされる。電子部品実装機(SMTマウンタ)も主力事業として展開する。
ジャノメ6445家庭用ミシン世界1位。2021年に蛇の目ミシン工業から社名変更。家庭用コンピュータミシンに加え、卓上ロボットや産業機器も手がける。
ペガサスミシン製造6262環縫い(オーバーロック)ミシン世界1位の工業用専業メーカー。ニット・カットソー縫製向けに高い世界シェアを保有する。

参考文献・出典

  1. [1] グローバル市場調査「世界ミシン市場規模 2024年」https://deallab.info/sewing/
  2. [2] deallab「ミシン業界の世界市場シェアの分析」https://deallab.info/sewing/
  3. [3] ブラザー工業「ブラザーの歴史」https://global.brother/en/corporate/history
  4. [4] JUKI「沿革|企業情報」https://www.juki.co.jp/company/history.html
  5. [5] JUKI「工業用ミシン事業|事業紹介」https://www.juki.co.jp/company/our-business/industrial-business/
  6. [6] 「ジャノメ」Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ジャノメ
  7. [7] 「PEGASUS(日本の精密機器メーカー)」Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ペガサスミシン製造
  8. [8] 「ヤマトミシン製造」Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/ヤマトミシン製造
  9. [9] 刺繍ミシンはタジマ工業・バルダンが世界大手(いずれも非上場)。