南アフリカの白金族・レアメタル鉱業

ブッシュフェルト火成岩体 — 世界のPGMの中心地

なぜ南アフリカが白金族の中心なのか

南アフリカの白金鉱山採掘
南アフリカにおける白金族金属の採掘作業。露天掘りと坑内採鉱の両方が行われ、世界の白金生産の過半を占めています。
画像: Ryanj93 / Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

南アフリカ共和国はプラチナ族金属(PGM: Platinum Group Metals = 白金 Pt、パラジウム Pd、ロジウム Rh、ルテニウム Ru、イリジウム Ir、オスミウム Os)の世界生産で圧倒的1位です[1]。プラチナでは世界の約73%[2]、ロジウムでは約85~88%[3]を生産しています。これはブッシュフェルト火成岩体(Bushveld Complex)という地質学的に特異な層状貫入岩体(Layered Intrusion)が国土北部に広がっていることに由来します。約2.05ギガ年前(Ga)[4]の超大型マグマ活動で形成されたこの岩体は東西約450km、南北約350km[5]におよぶ世界最大のPGM鉱床群です。

~73%
世界プラチナ生産シェア(南ア)[2]
~85-88%
世界ロジウム生産シェア(南ア)[3]
~41%
世界クロムシェア(南ア)[6]
~21-25%
世界マンガン生産シェア(南ア)[7]

ブッシュフェルト火成岩体の主要鉱床

PGMはおもに3層の鉱化帯(リーフ)から採掘されます。

リーフ位置特徴
Merensky Reef西〜東リム19世紀末発見、伝統的なPGM鉱床、Pt主体
UG2 Reef(Upper Group 2 Chromitite)西〜東リムクロマイト主体、Pt/Pd/Rh併産。深部化で主力に
Platreef北リム厚い層、Pd>Pt、Ni/Cu併産。露天掘り可能

主要PGM企業

企業主な鉱山概略
Anglo American Platinum(Amplats)Mogalakwena, Amandelbult, Mototolo世界最大のPGM企業、Anglo American傘下。Mogalakwenaは世界唯一のPlatreef露天掘り
Sibanye-StillwaterRustenburg, Kroondal, Marikana旧Lonmin買収。米モンタナ州Stillwater鉱山も保有
Impala Platinum(Implats)Impala Rustenburg, Marula, Two Riversカナダジンバブエにも展開
Northam PlatinumBooysendal, Zondereinde中堅
TharisaTharisa Mineクロム+PGM併産

ロシアNorilsk Nickelはノリリスク(シベリア)でNi/Cu採掘の副産物としてパラジウム世界1位(世界生産の約40%[8])、プラチナ世界2位を生産しており、南アとロシアでPGM供給の大半を占めます。

クロム・マンガンも世界トップ

ブッシュフェルト体には世界最大のクロム鉱床もあり、フェロクロムを含む南アフリカのクロム輸出量は世界1位です。隣接するノーザンケープ州のカラハリ・マンガン田 は世界最大のマンガン鉱床で、Anglo American/BHPのSamancor Manganese などが操業しています。

金・ダイヤモンド — 歴史的な主役

南アフリカは1886年[9]のヴィットウォーターズランド金鉱(Witwatersrand)発見以来、長く世界最大の金産国でしたが、深度3,000m級[10]を超える坑内採掘の高コスト化で生産は減少。現在の世界1位は中国、南アは10位前後です。AngloGold AshantiGold FieldsHarmony Goldが3大手で、いずれも国際展開しています。

ダイヤモンドはキンバリー(Kimberley、Big Hole)の採掘(1871年[11]開始)がDe Beers Consolidated Mines (1888年3月[12]設立)の礎となりました。現在De BeersはAnglo American傘下 で、ボツワナ・ナミビアカナダにも展開しています。

自動車触媒需要との関係

PGMの最大用途は自動車排ガス触媒(オートキャット) で、ガソリン車はPt/Pd/Rh、ディーゼル車はPtを多用します。EV化はPGM需要を構造的に減らす方向に働きますが、水素燃料電池(PEMFC)の電極触媒水電解(PEM)の電極 にPt/Irが不可欠なため、水素経済の進展次第で代替需要が生まれるとされます。

産業上の課題

  • 電力危機(Loadshedding): Eskomの計画停電が鉱山稼働率を大きく下げる
  • 鉱区深度化: PGM鉱山は地下2,000m[1]級が多く、坑道冷却・換気コストが上昇
  • 労働争議: 2012年Marikana事件以来、労使関係が事業リスクの中心
  • B-BBEE: 黒人経済力強化政策で鉱業権の26%以上を歴史的不利益層に保有させる必要

主要南ア鉱業企業の時価総額マップ

PGM(白金族)

※ 面積は時価総額(概算・1ドル=150円換算)に比例。

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
AngloGold AshantiAU元南アAnglo Americanから1998年分離、2023年に本社を米コロラド州デンバーに移し米NYSE一次上場へ。タンザニアGeita、コンゴ民主Kibali(45%、Barrickと合弁)、豪Sunrise Dam/Tropicana、米Centerra(2024年Sukari取得)を主力に、ブラジル・アルゼンチン・ガーナ・ギニアで金を生産。
Gold FieldsGFI南ア・ヨハネスブルグ本社、世界有数の金鉱業者。南アSouth Deep(同国最大級の深部金鉱)、豪州St Ives/Agnew/Granny Smith、ガーナTarkwa/Damang、ペルーCerro Corona(銅金)、チリSalares Norte(2024年生産開始)、カナダWindfall(2024年Osisko Mining買収)を運営。
Sibanye-StillwaterSBSW南ア・ウェストンアリア本社、2013年Gold Fieldsから分離して創業後、M&Aで急拡大。南アのPGM(旧Lonmin Marikana・Rustenburg)、米モンタナ州Stillwater/East Boulder(米国唯一のPGM鉱山)、南ア金(Beatrix・Driefontein・Kloof)に加え、欧州ではフィンランドKeliber(リチウム建設中)・仏Sandouvilleニッケル製錬所で電池金属にも進出。
Harmony GoldHMY南ア・ヨハネスブルグ本社、南ア最大の金生産者の一つ。ヴィットヴァータースラント金鉱床のMoab Khotsong・Mponeng(世界最深クラス)・Tshepong等を運営。パプアニューギニアのHidden Valley金鉱山、Wafi-Golpu銅金プロジェクト(Newmontと50/50JV)を保有し、銅への多角化を進める。
SasolSSL南ア・ヨハネスブルグ本社、1950年設立の世界最大の石炭液化(CTL)・天然ガス液化(GTL)企業。ムプマランガ州シクンダの巨大Secunda複合(CTL)で南ア国内液体燃料の約3割を供給。モザンビーク産天然ガスを活用したSasolburg GTL、ルイジアナ州レイクチャールズの化学複合も運営。
Anglo American PlatinumAMS.JO通称Amplats、南ア・ヨハネスブルグ上場。世界最大のプラチナ(Pt)・パラジウム(Pd)・ロジウム(Rh)生産者。ブッシュフェルト火成岩体のMogalakwena(世界最大のPGM露天掘り)、Amandelbult、Mototolo、Modikwa、Unki(ジンバブエ)を運営。2024年Anglo Americanが事業分離方針を発表し、2025年に「Valterra Platinum」として分離される予定。
Impala PlatinumIMP.JO通称Implats、南ア・ヨハネスブルグ上場、世界2位のPGM生産者。南アブッシュフェルトのImpala Rustenburg(同社最大、世界有数)、ジンバブエのZimplats(87%、世界最大級のPGM埋蔵)、南アMarula、カナダImpala Canada(旧Lac des Iles、パラジウム主体)、2023年買収のRoyal Bafokeng PlatinumのStyldrift等を運営。
Northam PlatinumNPH.JONortham Platinum Holdings、南ア・ヨハネスブルグ上場の独立系PGM生産者。ブッシュフェルト西部ZondereindeとBooysendal(北部リンポポ州)、2021年買収のEland/Eland Platinumを運営し、南ア3大PGMメジャー(Amplats・Implatsと並び)の一角。精錬所Zondereindeも保有し上流〜精錬まで一貫体制。

参考文献・出典

  1. [1] USGS「Mineral Commodity Summaries 2025 — Platinum-Group Metals」PDF
  2. [2] World Platinum Investment Council「Platinum Quarterly」https://platinuminvestment.com/supply-and-demand/platinum-quarterly
  3. [3] USGS「2021 Minerals Yearbook - Platinum-Group Metals」PDF
  4. [4] USGS「Platinum-group elements in southern Africa: mineral inventory and an assessment of undiscovered mineral resources」SIR 2010-5090-Qhttps://pubs.usgs.gov/publication/sir20105090Q
  5. [5] Britannica「Bushveld Complex」https://www.britannica.com/place/Bushveld-Complex
  6. [6] USGS「Mineral Commodity Summaries 2025 — Chromium」PDF
  7. [7] USGS「Mineral Commodity Summaries 2025 — Manganese」PDF
  8. [9] South African History Online「Discovery of the Gold in 1884」https://sahistory.org.za/article/discovery-gold-1884
  9. [10] USGS「Platinum-group elements in southern Africa: mineral inventory and an assessment of undiscovered mineral resources」https://pubs.usgs.gov/publication/sir20105090Q
  10. [11] Britannica「Big Hole」https://www.britannica.com/place/Big-Hole