瀬戸内工業地域

石油化学・鉄鋼・造船・自動車が瀬戸内海沿岸に集積する多面的産業圏

最終更新: 2026年3月30日

瀬戸内工業地域の概要

瀬戸内工業地域は、瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・愛媛・香川・兵庫の沿岸部にまたがる広域工業地域です[1]。穏やかな海象と臨海立地の利点を活かし、石油化学・鉄鋼・造船・自動車・繊維といった多様な重化学工業が集積しています。瀬戸内海沿岸の工業地帯の製造業出荷額は合計で年間約25兆円規模に達し、西日本の経済を牽引する重要な産業帯です。

四大工業地帯(京浜・中京・阪神・北九州)を結ぶ「太平洋ベルト」の中間に位置し、原材料の輸入と製品の輸出の両方に適した立地です。特に造船業は瀬戸内海沿岸に国内建造量の約70%以上が集中しており[2]、「造船の海」とも呼ばれます。今治造船グループが国内建造量の35%を占める最大手であり、瀬戸内海沿岸に複数の拠点を配置しています[3]

基本データ

対象府県

7

県(岡山・広島・山口・愛媛・香川・徳島・兵庫の瀬戸内側)

主要コンビナート

水島・周南

石油化学コンビナート2地区

造船シェア

約70

%超(国内建造量・瀬戸内海沿岸)

自動車生産

マツダ・三菱

広島(マツダ)・水島(三菱自動車)

産業構造 — 五つの柱

瀬戸内工業地域は単一産業に依存せず、複数の基幹産業が地域内で補完し合う構造です。

産業主要拠点主要企業
石油化学水島(倉敷)・周南(山口)旭化成・三菱ケミカル・トクヤマ・出光興産
鉄鋼水島(倉敷)・福山(広島)JFEスチール(水島・福山)・日本製鉄(呉)
造船今治・呉・常石・尾道・丸亀今治造船・JMU・常石造船・大島造船所
自動車広島(安芸郡)・水島(倉敷)マツダ・三菱自動車
化学・繊維周南・新居浜・倉敷トクヤマ・住友化学・クラレ

地域別の産業集積

岡山県(水島地区)

水島コンビナートは石油化学・鉄鋼・自動車の3業種が一カ所に集積する日本唯一の複合型コンビナートです[4]

  • JFEスチール西日本製鉄所(水島): 自動車用ハイテン鋼板の主力拠点。2025年に第3高炉を休止し、大型電気炉への転換に着手
  • 旭化成 水島工場: エチレン・合成ゴム・LIBセパレーター。水島エチレン(三菱ケミカルと共同)を運営
  • 三菱自動車 水島工場: 国内唯一の軽自動車専用工場。日産へのOEM供給が大半

→ 詳細: 水島コンビナート

広島県

  • JFEスチール西日本製鉄所(福山): 水島と並ぶJFEの主力拠点。粗鋼年産能力は国内最大級
  • マツダ 本社工場(安芸郡府中町): ロータリーエンジンの開発で知られる。「SKYACTIV」技術で燃費性能を追求
  • 常石造船(福山): ばら積み船・コンテナ船。フィリピン・中国にも造船所
  • JMU呉: 旧呉海軍工廠の流れを汲む大型商船建造拠点

山口県(周南地区)

  • 出光興産 徳山製油所: 西日本の石油精製拠点
  • トクヤマ: セメント・化学品・多結晶シリコン。周南市に本社工場
  • 東ソー: 塩ビ樹脂・クロルアルカリ化学の大手

愛媛県

  • 今治造船(今治市): 国内建造量1位。年間70隻超を建造
  • 住友化学 新居浜工場: 住友グループ発祥の地。農薬・電子材料
  • 住友金属鉱山 別子銅山跡: 歴史的鉱山。現在は電池材料(ニッケル酸リチウム)の拠点

香川県

  • 今治造船 丸亀事業所: 大型船建造ドック
  • 三菱造船(坂出): LNG船の設計建造拠点

瀬戸内海が工業に適する理由

  • 穏やかな海象: 波・風が小さく、造船の進水や大型タンカーの入港に適する
  • 多島海の天然良港: 島々が防波堤の役割を果たし、各地に天然の良港が点在
  • 温暖少雨の気候: 年間を通じて屋外作業が可能
  • 原材料輸入と製品輸出の利便性: 太平洋側と日本海側の双方にアクセス可能

歴史

出来事
1890年代住友家が別子銅山(新居浜)を近代化。瀬戸内海の工業化の端緒
1920年代呉海軍工廠が世界最大級の軍艦建造能力を持つ
1941三菱重工が水島に航空機工場建設
1960年代水島コンビナート建設。石油化学プラントと高炉製鉄所が相次いで完成
1967マツダ(旧東洋工業)が初の量産ロータリーエンジン車「コスモスポーツ」を発売
1970年代瀬戸内海環境保全特別措置法制定。工業排水・大気汚染対策が強化
2002川崎製鉄と日本鋼管が合併しJFEスチール発足
2016三菱自動車の燃費不正問題。日産が34%出資し傘下に
2021今治造船とJMUが資本業務提携。日本シップヤード(NSY)設立
2025JFEスチール水島第3高炉休止、大型電気炉への転換に着手

コンビナートの詳細

関連企業の時価総額マップ

瀬戸内工業地域に関連する主要上場企業の時価総額を可視化しています。

鉄鋼素材・化学自動車エネルギー造船・重工

※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。

企業 証券コード 事業概要・瀬戸内との関連 決算情報 配当履歴
日立製作所 大手総合電機メーカー。下松(笠戸)事業所で鉄道車両・電力機械を製造。英国・イタリア向け高速車両も手がける主要拠点。
JFEホールディングス 国内第2位の鉄鋼メーカー。西日本製鉄所(水島・福山)は自動車用ハイテン鋼板の主力拠点で、合計粗鋼年産能力は約800万トン。水島で大型電気炉への転換に着手(2027年稼働予定)。
マツダ 広島県安芸郡府中町に本社・本社工場を配置する自動車メーカー。SKYACTIV技術で燃費性能を追求し、ロータリーエンジン開発の伝統を持つ瀬戸内地域の象徴企業。
ブリヂストン 世界最大のタイヤメーカー。瀬戸内海沿岸に複数の生産拠点を保有し、自動車タイヤ・産業用タイヤ・高機能ゴム製品を製造。
三菱重工業 大手重工業メーカー。下関造船所で商船・艦艇を建造し、神戸造船所では潜水艦を製造。瀬戸内海での造船拠点を複数配置。
住友金属鉱山 新居浜の別子銅山が発祥の鉱山企業。現在は銅・ニッケル・コバルトなどの金属生産を展開し、ニッケル酸リチウム等のEV向け電池材料が急成長領域。
神戸製鋼所 鉄鋼・アルミニウム・機械の3本柱で成り立つ重工業メーカー。加古川製鉄所が鉄鋼主力で、自動車向けアルミ板で高シェアを占める。
旭化成 水島を発祥・主力拠点とする総合化学メーカー。エチレン・合成ゴム・LIBセパレーター(ハイポア)・建材・医薬品・繊維を展開。LIBセパレーターはEV向け成長領域。
三浦工業 愛媛県松山市に本社。小型貫流ボイラーで国内シェア約50%を占める。水処理設備・食品機械・産業機械にも展開する瀬戸内地域の機械メーカー。
トクヤマ 山口県周南市に本社工場を配置。セメント・苛性ソーダ・ポリ塩化ビニル・多結晶シリコンが主力。半導体用高純度品・化学品で高付加価値化を進行中。

参考文献

参考文献・出典

  1. [1] 経済産業省「工業統計調査」https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/
  2. [2] 国土交通省「瀬戸内海沿岸の造船クラスター」PDF
  3. [3] 国土交通省 海事局「造船業の建造量統計」PDF
  4. [4] 水島臨海工業地帯の現状 PDF