瀬戸内工業地域の概要
瀬戸内工業地域は、瀬戸内海沿岸の岡山・広島・山口・愛媛・香川・兵庫の沿岸部にまたがる広域工業地域です[1]。穏やかな海象と臨海立地の利点を活かし、石油化学・鉄鋼・造船・自動車・繊維といった多様な重化学工業が集積しています。瀬戸内海沿岸の工業地帯の製造業出荷額は合計で年間約25兆円規模に達し、西日本の経済を牽引する重要な産業帯です。
四大工業地帯(京浜・中京・阪神・北九州)を結ぶ「太平洋ベルト」の中間に位置し、原材料の輸入と製品の輸出の両方に適した立地です。特に造船業は瀬戸内海沿岸に国内建造量の約70%以上が集中しており[2]、「造船の海」とも呼ばれます。今治造船グループが国内建造量の35%を占める最大手であり、瀬戸内海沿岸に複数の拠点を配置しています[3]。
基本データ
対象府県
7
県(岡山・広島・山口・愛媛・香川・徳島・兵庫の瀬戸内側)
主要コンビナート
水島・周南
石油化学コンビナート2地区
造船シェア
約70
%超(国内建造量・瀬戸内海沿岸)
自動車生産
マツダ・三菱
広島(マツダ)・水島(三菱自動車)
産業構造 — 五つの柱
瀬戸内工業地域は単一産業に依存せず、複数の基幹産業が地域内で補完し合う構造です。
| 産業 | 主要拠点 | 主要企業 |
|---|---|---|
| 石油化学 | 水島(倉敷)・周南(山口) | 旭化成・三菱ケミカル・トクヤマ・出光興産 |
| 鉄鋼 | 水島(倉敷)・福山(広島) | JFEスチール(水島・福山)・日本製鉄(呉) |
| 造船 | 今治・呉・常石・尾道・丸亀 | 今治造船・JMU・常石造船・大島造船所 |
| 自動車 | 広島(安芸郡)・水島(倉敷) | マツダ・三菱自動車 |
| 化学・繊維 | 周南・新居浜・倉敷 | トクヤマ・住友化学・クラレ |
地域別の産業集積
岡山県(水島地区)
水島コンビナートは石油化学・鉄鋼・自動車の3業種が一カ所に集積する日本唯一の複合型コンビナートです[4]。
- JFEスチール西日本製鉄所(水島): 自動車用ハイテン鋼板の主力拠点。2025年に第3高炉を休止し、大型電気炉への転換に着手
- 旭化成 水島工場: エチレン・合成ゴム・LIBセパレーター。水島エチレン(三菱ケミカルと共同)を運営
- 三菱自動車 水島工場: 国内唯一の軽自動車専用工場。日産へのOEM供給が大半
→ 詳細: 水島コンビナート
広島県
- JFEスチール西日本製鉄所(福山): 水島と並ぶJFEの主力拠点。粗鋼年産能力は国内最大級
- マツダ 本社工場(安芸郡府中町): ロータリーエンジンの開発で知られる。「SKYACTIV」技術で燃費性能を追求
- 常石造船(福山): ばら積み船・コンテナ船。フィリピン・中国にも造船所
- JMU呉: 旧呉海軍工廠の流れを汲む大型商船建造拠点
山口県(周南地区)
- 出光興産 徳山製油所: 西日本の石油精製拠点
- トクヤマ: セメント・化学品・多結晶シリコン。周南市に本社工場
- 東ソー: 塩ビ樹脂・クロルアルカリ化学の大手
愛媛県
- 今治造船(今治市): 国内建造量1位。年間70隻超を建造
- 住友化学 新居浜工場: 住友グループ発祥の地。農薬・電子材料
- 住友金属鉱山 別子銅山跡: 歴史的鉱山。現在は電池材料(ニッケル酸リチウム)の拠点
香川県
- 今治造船 丸亀事業所: 大型船建造ドック
- 三菱造船(坂出): LNG船の設計建造拠点
瀬戸内海が工業に適する理由
- 穏やかな海象: 波・風が小さく、造船の進水や大型タンカーの入港に適する
- 多島海の天然良港: 島々が防波堤の役割を果たし、各地に天然の良港が点在
- 温暖少雨の気候: 年間を通じて屋外作業が可能
- 原材料輸入と製品輸出の利便性: 太平洋側と日本海側の双方にアクセス可能
歴史
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1890年代 | 住友家が別子銅山(新居浜)を近代化。瀬戸内海の工業化の端緒 |
| 1920年代 | 呉海軍工廠が世界最大級の軍艦建造能力を持つ |
| 1941 | 三菱重工が水島に航空機工場建設 |
| 1960年代 | 水島コンビナート建設。石油化学プラントと高炉製鉄所が相次いで完成 |
| 1967 | マツダ(旧東洋工業)が初の量産ロータリーエンジン車「コスモスポーツ」を発売 |
| 1970年代 | 瀬戸内海環境保全特別措置法制定。工業排水・大気汚染対策が強化 |
| 2002 | 川崎製鉄と日本鋼管が合併しJFEスチール発足 |
| 2016 | 三菱自動車の燃費不正問題。日産が34%出資し傘下に |
| 2021 | 今治造船とJMUが資本業務提携。日本シップヤード(NSY)設立 |
| 2025 | JFEスチール水島第3高炉休止、大型電気炉への転換に着手 |
コンビナートの詳細
関連企業の時価総額マップ
瀬戸内工業地域に関連する主要上場企業の時価総額を可視化しています。
鉄鋼素材・化学自動車エネルギー造船・重工
※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。
参考文献
参考文献・出典
- [1] 経済産業省「工業統計調査」https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/
- [2] 国土交通省「瀬戸内海沿岸の造船クラスター」PDF
- [3] 国土交通省 海事局「造船業の建造量統計」PDF
- [4] 水島臨海工業地帯の現状 PDF