水島コンビナート

岡山県倉敷市・石油化学・製鉄・自動車が集積する中国地方最大の工業地帯

最終更新: 2026年3月22日

基本データ

エチレン年産能力

約45.5

万トン(水島エチレン:旭化成・三菱ケミカル共同運営)。国内7位

JFE西日本粗鋼能力

約530

万トン/年(第4高炉+電気炉転換中)。国内2位クラス

三菱自動車 生産能力

約24

万台/年(水島工場)。日本唯一の軽自動車専用工場

水島港貨物取扱量

約5,700

万トン/年(2022年)。国内主要港の中で有数

水島コンビナートの特異性 — 3業種の共存

多くのコンビナートが石油化学または鉄鋼のいずれかを主体とするのに対し、水島はそれに加えて自動車製造が加わる珍しい構成です。この3業種の複合立地は日本でも水島のみで、素材の垂直統合という観点から注目されます。

水島の産業ネットワークの概念図:

[石油精製(ENEOS)]
    ↓ ナフサ・LPG
[石油化学(水島エチレン:旭化成・三菱ケミカル共同)]
    ↓ ABS樹脂・PPなど車載部品原料
[自動車製造(三菱自動車)]
    ↓ 完成車輸送
[水島港(輸出)]

[製鉄(JFEスチール)]
    ↓ 鋼板(自動車用ハイテン)
[自動車製造(三菱自動車)]

三菱自動車水島工場で使用される鋼板の一部は同一コンビナート内のJFEスチールから調達しており、輸送距離の短縮と原材料コストの削減を実現しています[1]

旭化成 — 水島を基盤とした多角化の歴史[2]

旭化成は1922年に野口遵(まもる)が創設した日本窒素肥料(チッソ)から独立した化学会社が前身で、初期は電解法による合成繊維(レーヨン)の製造に特化していました。1965年に水島での石油化学進出を経て、今日の総合化学・住宅・医薬の多角化企業に成長しました。

期間主要事業・変化
1922〜1940合成繊維(レーヨン)・火薬・肥料
1965〜水島での石油化学(エチレン・合成ゴム)開始
1980年代ABS樹脂・建材(ヘーベルハウス)へ多角化
2000年代リチウムイオン電池セパレーター(ハイポア)事業育成
2015米ポリポア社(電池材料)を約1,800億円で買収
2020〜EV向け電池材料が急成長。売上構成比が大きく変化
2025鉛蓄電池セパレーター(Daramic)事業を売却。LIBセパレーターへリソース集中

水島での主要製品(2023年時点)

製品カテゴリ代表製品用途
石油化学エチレン・プロピレン樹脂・合成ゴム原料
合成ゴムポリブタジエンゴム(BR)・SBRタイヤ・靴底
高機能樹脂ABS樹脂家電筐体・自動車内装
電池材料LIBセパレーター(ハイポア)電気自動車・スマートフォン
繊維ベンベルグ(銅アンモニア法再生セルロース)高級裏地・医療用品

旭化成のLIBセパレーター(ハイポア)はかつて世界首位級のシェアを持っていましたが、近年は中国メーカーの台頭により世界シェアは約10%前後まで低下しています[2]。それでもEV普及を背景に重要な事業の柱と位置付けられています。

JFEスチール西日本製鉄所(水島地区)

JFEスチールは川崎製鉄と日本鋼管が2002年に合併して発足したメーカーで、西日本製鉄所の水島地区はその主力拠点です[3]

設備仕様
高炉第4高炉1基稼働(第3高炉は2025年バンキング、第2高炉跡地は大型電気炉へ転換中・2027年稼働予定)
粗鋼生産能力約530万トン/年(電気炉稼働後に体制再編見込み)
主な製品自動車用冷延薄板・亜鉛めっき鋼板・熱延コイル
主要納入先三菱自動車・マツダ・輸出向け自動車メーカー

水島地区の特徴は自動車用高張力鋼板(ハイテン)への特化です。車体軽量化ニーズの高まりとともに引張強度980MPa〜1,470MPa超の超ハイテンの生産比率が拡大しています。超ハイテンは加工が難しい一方、車体重量を従来比20〜30%削減できるため、電動化(EV)との親和性が高い素材として注目されています。

三菱自動車工業 水島工場

三菱自動車水島工場は1977年に設立。軽自動車専用工場として軽トラック・軽乗用車の生産を担ってきました[1]。現在は日産・三菱の連携(2023年にはルノーも加わる)の中で、軽自動車の開発・生産で重要な役割を果たしています。

製品モデル特記事項
三菱 eKクロス軽SUV。日産デイズと共同開発・姉妹車
三菱 デリカミニ2023年発売。スーパーハイト系軽自動車
日産 デイズ(OEM)水島工場でも製造
日産 ルークス(OEM)水島で三菱・日産両ブランド向けを製造

OEM供給の規模感: 水島工場の生産台数のうち約60〜70%が日産向けOEMとも言われており、三菱ブランドよりも日産ブランド車の方が多い逆転現象が起きています(推計、各年度生産データより)。

水島港の物流機能

水島港は岡山県が管理する重要港湾で、コンビナートの原材料輸入と製品輸出の両方を担います。

指標数値
貨物取扱量約5,700万トン/年(2022年)[1]
主要輸入品原油・LNG・鉄鉱石・石炭
主要輸出品完成車・鋼板・化学製品
完成車ふ頭三菱・日産向け輸出船(PCCバース)

完成車の輸出ではPCC(Pure Car Carrier)専用岸壁が整備されており、1隻に約6,000台を積載できる大型自動車輸送船が定期就航しています。

歴史

出来事
1943三菱重工業が水島に航空機工場を建設[4]。工業化の始まり
1945終戦。航空機工場が民需生産に転換(のちの三菱自動車の原型)
1972旭化成が水島でエチレンプラント(ナフサ分解装置)を稼働開始[5]。石油化学進出
1967旧川崎製鉄(現JFE)が水島に高炉一貫製鉄所を建設
2002川崎製鉄と日本鋼管が合併しJFEスチール発足
2010年代石油化学設備の統廃合(水島エリアでエチレン設備集約)
2025JFEスチール第3高炉バンキング。第2高炉跡地で大型電気炉建設に着手

関連企業の時価総額マップ

素材・化学鉄鋼自動車エネルギー半導体材料

※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。

企業 証券コード 事業概要・水島との関連 決算情報 配当履歴
旭化成 水島を発祥・主力拠点とする総合化学メーカー。エチレン・合成ゴム(BR・SBR)・高機能樹脂(ABS)・LIBセパレーター(ハイポア)・繊維を製造。鉛蓄電池セパレーター事業は2025年に売却予定。
JFEホールディングス 西日本製鉄所(水島)は自動車用ハイテン鋼板に特化した一貫製鉄所で、粗鋼年産能力は約530万トン。第3高炉を2025年に休止し、第2高炉跡地に大型電気炉を建設中(2027年稼働予定)。
三菱自動車工業 水島工場が国内唯一の軽自動車専用生産拠点で、年産能力は約24万台。eKクロス・デリカミニなど軽SUV・軽ハイトワゴンを製造。日産へのOEM供給(約60〜70%)が中心で、ルノーとのEV開発も進行中。
三菱ケミカルグループ 石油化学・炭素事業は構造改革により分社化済。水島事業所ではスペシャリティ化学品に注力。エチレンは水島エチレン(旭化成と共同運営)に集約し、炭素繊維・機能性材料で高付加価値化を進行中。
ENEOSホールディングス 水島製油所(旧東燃ゼネラル石油)を傘下に持ち、コンビナートへのナフサ・LPG供給の中核を担う。国内最大の石油元売りで、製油所集約・効率化を継続中。
クラレ 水島を主力拠点とする機能性材料メーカー。PVA(ポリビニルアルコール)・接着樹脂・偏光フィルムで世界シェア上位。革新的機能素材を水島で集中開発・製造。
信越化学工業 水島・鹿島・京葉など複数の主要コンビナートに拠点を展開。ポリ塩化ビニル・シリコーン樹脂・半導体ウェーハで国内最大級の競争力を保有。電子材料事業も高成長。
住友化学 複数のコンビナートに拠点を保有する総合化学大手。千葉・鹿島にエチレン装置を集約後も、水島コンビナート関連の供給ネットワークに参加。農薬・医薬品・半導体材料を展開。
大阪ソーダ 西日本のコンビナートに複数拠点を展開。塩素・アルカリ化学品(苛性ソーダ・塩素ガス)・香料・医薬品中間体を製造。水島コンビナート関連の供給ネットワークに統合。

参考文献

参考文献・出典

  1. [1] 水島臨海工業地帯の現状. PDF
  2. [2] Trailblaze Together - 旭化成レポート2025. PDF
  3. [3] JFEホールディングス株式会社. 「JFEグループの歩み(前史)」. 2023年. https://www.jfe-holdings.co.jp/company/history/prehistory.html
  4. [4] Wikipedia「Mitsubishi Mizushima」https://en.wikipedia.org/wiki/Mitsubishi_Mizushima
  5. [5] 旭化成株式会社「旭化成の歩み」https://www.asahi-kasei.com/jp/company/history/
  6. 日本石油化学工業協会. 「石油化学工業の現状 2023年版」. 2023年. https://www.jpca.or.jp/
  7. 岡山県「水島港の概要」https://www.pref.okayama.jp/