日本の板ガラス・特殊ガラス産業

AGC・日本電気硝子・日本板硝子・日東紡 — 建築・自動車・ディスプレイ・半導体パッケージの素材産業

最終更新: 2026年4月7日

日本の板ガラス産業の概観

板ガラスの製法サンプル展示
歴史的な板ガラス製法のサンプル展示。日本の板ガラス産業はAGC・日本電気硝子・日本板硝子・日東紡が建築・自動車・ディスプレイ・半導体パッケージ向けに高機能ガラスを供給しています。
画像: Kerstinfroberg / Wikimedia Commons (CC BY-SA 4.0)

日本の板ガラス・特殊ガラス産業は、AGC(旧旭硝子、5201)日本板硝子(NSG、5202)日本電気硝子(NEG、5214)の板ガラス3社に加え、ガラス繊維(ガラスクロス)で半導体パッケージ基板を支える日東紡績(3110)が重要なプレーヤーです。AGCとNSGはコモディティの建築用フロートガラスから自動車用ガラスまで広く手がけ、NEGはCRTブラウン管ガラスの時代から液晶ディスプレイ用ガラス基板へ転換し、現在はガラスファイバー・医薬用バイアルなどに展開しています。日東紡は福島を拠点に、AI・半導体需要で急成長中のスペシャルガラスクロスでグローバルニッチトップの地位を築いています。世界のフロートガラス(板ガラス)はAGC・NSG・米Guardian仏Saint-Gobainの4社で世界生産の大半を占めるという寡占構造で、日本2社はそのうち2席を確保しています。

2.10兆円[1]
AGC連結売上(2024年12月期)
8,325億円[2]
NSG連結売上(2024年3月期)
1,090億円[3]
日東紡連結売上(2025年3月期)
2006[4]
NSGが英Pilkington買収("小蛇が大蛇を呑む")

主要メーカー

AGC株式会社(5201、旧旭硝子)

1907年(明治40年)[5]、岩崎俊弥(三菱2代目岩崎弥之助の子)が兵庫県尼崎で創業。世界1〜2位のフロートガラスメーカーで、化学(カセイソーダ・フッ素樹脂)・電子(半導体用合成石英・EUVマスクブランクス)と多角化しています。本社は東京・丸の内。

  • 主要工場:愛知工場(武豊町)、関西工場(高砂)、京浜工場(鶴見)、千葉工場(市原)

日本板硝子株式会社(NSG、5202)

1918年大阪で創業[4]。2006年に英国のグローバル板ガラス大手Pilkingtonを約6,160億円で買収し、一気に世界トップ級に躍り出ました(「小蛇が大蛇を呑む買収」)[4]。買収後の財務負担が大きく、現在は構造改革を進めています。本社は東京・三田。

  • 主要工場:京都工場(舞鶴)、千葉事業所(市原)

日本電気硝子株式会社(NEG、5214)

1944年滋賀県大津市で創業[6]液晶ディスプレイ用ガラス基板で世界トップ3(米Corning台湾AvanStrate日本電気硝子)の一角。ガラスファイバー、医薬・電子用ガラス管も強み。本社は大津市。

  • 主要工場:大津事業場(滋賀県大津市)、能登川事業場、ハリオサイエンスグループ

日東紡績株式会社(3110)

1923年(大正12年)福島県で綿紡績会社として創業[7]。戦後にガラス繊維事業へ進出し、現在はガラスクロス(ガラス繊維の織物)を主力とするスペシャルガラスのグローバルニッチトップ企業へ変貌しています。特に先端半導体パッケージ基板に不可欠なTガラスクロス(高弾性・低熱膨張)と、5G・高速通信向けのNEガラスクロス(低誘電・低誘電正接)の2つのスペシャルガラスで世界トップシェアを握ります[8]。AI・半導体需要の急拡大を受けて電子材料事業は売上高の約48%、営業利益の85%超を稼ぐ収益ドライバーとなっており[3]、福島事業センターに約150億円を投じて新工場棟を建設中(2027年稼働予定)で生産能力を最大3倍に増強する計画です[9]。本社は東京・千代田区(登記上は福島市)。

  • 主要工場:福島事業センター(福島市)

用途別市場構造

用途説明主要メーカー
建築用フロートガラス窓ガラス(複層ガラス・Low-Eガラス)AGC、NSG
自動車用ガラスフロント(合わせ)・サイド・リア・ルーフAGC、NSG、Pilkington Automotive、Saint-Gobain Sekurit
ディスプレイ用ガラス基板液晶パネル・OLED用TFTガラス基板(マザーガラス)Corning, AGC, NEG, AvanStrate
半導体用合成石英・マスクブランクスEUV露光用フォトマスク基板AGC、HOYA、信越化学
耐熱・特殊ガラス調理器具・実験器具・薬品瓶NEG、HARIO、AGC
ガラス繊維・ガラスクロス半導体PKG基板(Tガラス・NEガラス)、FRP・絶縁材日東紡(スペシャルガラスクロス世界トップ)、NEG(電子用)、Owens Corning
太陽電池カバーガラス結晶Si・薄膜太陽電池AGC、NSG、中国Xinyi Solar

中部・関西〜九州に集まるガラス工場

板ガラスは溶融炉が大型・連続稼働で、シリカ砂・ソーダ灰・石灰石といった原料の調達と、水運が立地条件として重要です[10]日本の板ガラス工場は中部(愛知県武豊・三重)、関西(兵庫県高砂・京都府舞鶴)、九州(北九州)など港湾隣接地に集中しています[11]

なぜEUVリソグラフィでも日本のガラスが鍵か

最先端半導体製造のEUV(極端紫外線)露光では、回路パターンを焼き付けるフォトマスク超低膨張係数の合成石英ガラスが必要です。このマスクブランクスで世界シェアの大半を握るのはHOYAAGC日本2社。信越化学の合成石英素材と合わせ、EUVリソグラフィはオランダASMLの装置と日本のガラス・素材で支えられています。

日本のガラスメーカー時価総額マップ

※ HOYAは光学・医療機器が主体だが、フォトマスク向けガラス基板の戦略的位置付けから含む。

関連企業の時価総額マップと企業情報

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
■ 板ガラス・フロートガラス大手
AGC 1907年創業、兵庫県尼崎発祥の多角化化学・ガラス大手。世界1~2位のフロートガラスメーカーで、建築用・自動車用ガラスから液晶ディスプレイ用ガラス基板、化学・電子材料まで展開。EUV露光用フォトマスク基板(合成石英ガラス)で世界的シェアを占める戦略的ポジション[5]
日本板硝子(NSG) 1918年大阪創業のガラスメーカー。2006年に英国の世界的大手Pilkingtonを約6,160億円で買収し、一気に世界トップ級に成長(「小蛇が大蛇を呑む買収」)。建築用・自動車用フロートガラスの大手だが、買収後の財務負担から現在は構造改革を推進[4]
■ ガラス繊維・ガラスクロス
日東紡績 1923年福島県で綿紡績会社として創業し、戦後にガラス繊維事業へ転換。半導体パッケージ基板に不可欠なTガラスクロス(高弾性・低熱膨張)とNEガラスクロス(低誘電・低誘電正接)でグローバルニッチトップの地位を確保[7]。AI・半導体需要の急拡大で電子材料事業が売上の約48%・営業利益の85%超を占める収益ドライバーに成長。福島事業センターに150億円を投じ生産能力を最大3倍に増強予定(2027年稼働)[9]
■ 特殊ガラス・光学
日本電気硝子 1944年滋賀県大津市創業の特殊ガラスメーカー。液晶ディスプレイ用ガラス基板で世界トップ3(米Corning、台湾AvanStrateと競争)の地位を確保。ガラスファイバー、医薬・電子用ガラス管製造でも強みを持つ。CRTブラウン管ガラス時代からの技術蓄積を活かし高機能材料供給を実現[6]
HOYA 光学・医療機器の世界大手。EUV露光用フォトマスク基板(合成石英ガラス)で世界首位のシェアを確保し、先端半導体製造の重要な供給企業。眼鏡レンズ・内視鏡・精密光学素子で高い技術力。AGC・信越化学と並んで、EUVリソグラフィ支援産業の中核を担う[12]
セントラルガラス 自動車用ガラス・液晶ディスプレイ用ガラス・光学ガラスを主力とする中堅ガラスメーカー。特殊ガラス分野での技術力を活かし、自動車サプライチェーンでのポジション確保。自動車メーカーのグローバル展開に対応した国内外での製造基盤で競争力を維持。

参考文献・出典

  1. [1] AGC株式会社「2024年12月期決算説明会資料」PDF
  2. [2] 日本板硝子「業績ハイライト」https://www.nsg.com/en/investors/ir-library/key-financial-data
  3. [3] 日東紡績「2025年3月期決算短信」https://www.nittobo.co.jp/ir/
  4. [4] 日本板硝子「会社情報」https://www.nsg.com/jp/about-nsg
  5. [5] AGC株式会社「会社概要」https://www.agc.com/company/profile/
  6. [6] 日本電気硝子「会社情報」https://www.neg.co.jp/company/
  7. [7] 日東紡績「会社概要」https://www.nittobo.co.jp/company/gaiyou.htm
  8. [8] 日東紡績「電子材料事業」https://www.nittobo.co.jp/business/electronicmaterials/index.htm
  9. [9] 日本経済新聞「日東紡、福島に半導体向け特殊ガラスの新工場棟」(2025年9月2日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC021TM0S5A900C2000000/
  10. [10] 板硝子協会「業界概況」https://www.itakyo.or.jp/
  11. [11] 経済産業省「窯業・建材統計」https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/ichiran/02_youkenchi.html
  12. [12] HOYA株式会社「会社情報」https://www.hoya.com/ja/about/