日本の内視鏡産業

オリンパス・富士フイルム・HOYA(PENTAX) — 軟性内視鏡で世界シェア9割超を占める医療機器産業

最終更新: 2026年6月30日

日本の内視鏡産業の概観

オリンパスの内視鏡
軟性内視鏡(消化器内視鏡)。柔軟に曲がる管を口や肛門から挿入し、胃や大腸の内部を観察・治療する医療機器。オリンパス・富士フイルム・HOYAの[日本](/rule/asia/japan/)3社が世界市場の9割超を占めます。
画像: Wikimedia Commons

内視鏡(Endoscope)は体内に挿入して臓器を観察・治療する医療機器で、とくに胃や大腸を診る軟性内視鏡(消化器内視鏡)の分野は日本企業の独壇場です。世界の消化器内視鏡市場はオリンパス・富士フイルム・HOYA(PENTAX)の3社で9割超を占め[1]、なかでもオリンパスは約7割という圧倒的なシェアで事実上の業界標準(デファクトスタンダード)を確立しています[2]。高度な学習コストと精密光学・電子・医療の複合技術が参入障壁となり、後発が容易に追随できない、典型的な「日本が勝ち続けるニッチ産業」です。

約70%
オリンパスの消化器内視鏡 世界シェア[2]
9割超
日本3社(オリンパス・富士フイルム・HOYA)の世界シェア合計[1]
約348億USD
世界内視鏡装置市場規模(2024年)[3]

主要3社の比較

企業証券コード設立本社特徴
オリンパス77331919[4]東京・新宿区消化器内視鏡 世界シェア約7割。1950年に実用的な胃カメラを世界に先駆けて開発。光学・処置具・AI診断支援まで一貫
富士フイルム49011934東京・港区世界2位。写真フィルムで培った画像技術を内視鏡に応用し、画像強調観察(LCI/BLI)で攻勢
HOYA(PENTAXメディカル)77411941東京・新宿区世界3位。細径スコープ・超音波内視鏡に強み。光学ガラスから医療まで展開する精密光学メーカー

軟性鏡と硬性鏡の違い

内視鏡は構造で「軟性鏡」と「硬性鏡」に大別され、強いメーカーの国籍が分かれます。

区分特徴主な用途世界の主導メーカー
軟性内視鏡(軟性鏡)柔軟に曲がる管。口・肛門・鼻から挿入胃・大腸・気管支などの消化器/呼吸器日本3社(オリンパス・富士フイルム・HOYA)
硬性内視鏡(硬性鏡)まっすぐな金属管。切開部から挿入腹腔鏡・関節鏡など外科手術カールストルツ・リチャードウルフ()、ストライカー(
単回使用(使い捨て)内視鏡感染対策で使い切り一部の消化器・泌尿器・気管支Ambu(デンマーク)、ボストン・サイエンティフィック(

日本勢は軟性鏡を圧倒的に握る一方、外科手術用の硬性鏡ではドイツのカールストルツや米国のストライカーが強く、近年は感染対策の単回使用内視鏡でデンマークのAmbuが台頭するなど、領域ごとに勢力図が異なります。

海外メーカーとの比較

メーカー強み
オリンパスJP 日本消化器内視鏡 世界1位
富士フイルムJP 日本軟性鏡 世界2位、画像強調
HOYA(PENTAX)JP 日本軟性鏡 世界3位、細径・超音波
カールストルツDE ドイツ硬性鏡(外科)世界大手
リチャードウルフDE ドイツ硬性鏡・内視鏡外科
ストライカーUS 米国手術用内視鏡・医療機器大手
AmbuDK デンマーク単回使用内視鏡で台頭

近年はオリンパスが米国キヤノンメディカルと協業するなど、画質・AI診断支援をめぐる競争が激化していますが、軟性内視鏡の中核では依然日本3社の優位が続いています[5]

日本での内視鏡の地理的特徴

内視鏡は精密光学・電子・組立の複合製品で、開発・生産拠点は関東に集中しています。

企業主な国内拠点
オリンパス会津オリンパス(福島・会津若松)でスコープを生産、白河・青森も福島/青森ほか
富士フイルム大宮事業場(埼玉)で内視鏡開発・生産埼玉
HOYA(PENTAX)東京・栃木ほか東京/栃木

オリンパスの内視鏡の主力生産は福島県会津若松市(会津オリンパス)にあり、世界の胃カメラ・大腸カメラの多くがここで作られています。

なぜ日本が内視鏡で強いのか

  • 胃カメラ発祥の先行者利益: オリンパスが1950年に実用的な胃カメラを世界で初めて開発し、以後ノウハウを蓄積[4]
  • 精密光学技術: カメラ・顕微鏡・光学ガラス(HOYA)で培ったレンズ・撮像技術が直結
  • 高い学習・転換コスト: 医師の操作習熟や処置具・洗浄機まで含めたシステム一体化が参入障壁となる
  • 画像技術の応用: 富士フイルムの画像処理など、隣接産業の技術を内視鏡に応用できる層の厚さ

世界消化器内視鏡市場シェアの可視化

世界 消化器(軟性)内視鏡市場 メーカー別シェア(推定)

※ シェアは業界調査・報道を基にした推定値[1]。日本3社で世界の9割超を占める。

日本の内視鏡メーカー時価総額マップ

※ 富士フイルム・HOYAの時価総額は内視鏡以外の事業を含む連結値。オリンパスは医療機器(内視鏡中心)への事業集中を進めている。

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
オリンパス7733消化器内視鏡で世界シェア約7割を握る医療機器メーカー。1950年に実用的な胃カメラを世界で初めて開発した。近年は医療(内視鏡・処置具)への事業集中を進めている。
富士フイルムホールディングス4901軟性内視鏡で世界2位。写真フィルムで培った画像技術を内視鏡に応用し、LCI/BLIなどの画像強調観察で差別化する総合ヘルスケア・素材メーカー。
HOYA7741PENTAXメディカルブランドで軟性内視鏡を展開する世界3位。細径スコープ・超音波内視鏡に強みを持つ。光学ガラスや半導体マスク基板も手がける精密光学メーカー。

参考文献・出典

  1. [1] 医療機器業界における国産消化器内視鏡事業のケース研究(JST)https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv/preprint/view/689
  2. [2] nippon.com「オリンパス:内視鏡で世界一のシェアを誇る」https://www.nippon.com/ja/features/c00513/
  3. [3] 内視鏡装置 世界市場レポート(2024年 約348億ドル)https://www.gii.co.jp/report/qyr1930526-endoscope-camera-system-global-market-share.html
  4. [4] オリンパス「内視鏡の歴史|技術」https://www.olympus-global.com/technology/museum/endo/
  5. [5] 東洋経済「競合から協業へ オリンパスとキヤノンが内視鏡でタッグ」https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/728835