日本の造船業

商船・艦艇・瀬戸内海クラスター — 世界3位の造船国の全体像

日本の造船業の概要

日本中国韓国に次ぐ世界第3位の造船国です。舶用機器メーカーを含む造船関連産業には約1,000社以上が存在し、従業員数は約7.2万人(外国人を含む)であり、造船は地方経済を支える主要産業です。貿易量の99.6%が海上輸送に依存する日本にとって[1]、造船は国家安全保障と経済の根幹を支える産業です。

造船所は瀬戸内海沿岸に集中し、穏やかな海象・豊富な関連産業・歴史的蓄積から「造船クラスター」を形成しています。瀬戸内海沿岸に多くの主要造船所が立地しており[2]、今治造船・JMU・常石造船・大島造船所などの大手が立地しています。しかし近年は中国の台頭により、2024年の世界受注シェアはわずか8%まで低下しており[2]中国が71%を占めています[2]日本政府は2035年に向けた「造船業再生ロードマップ」を策定し、建造量の倍増(現在の900万GTから1,800万GT目標[3])と産業再編を推進しています[3]

基本データ

従業員数

約7.2万

人(うち外国人約1.5万人・2024年)[4]

世界受注シェア

8

%(2024年・[中国](/rule/asia/china/)71%に対し大幅縮小)[2]

国内建造量

約9百万

GT(2024年)

2035年目標

1,800万

GT(現在の倍増)[3]

国内主要造船所

日本の商船建造は、今治造船とJMUの2社で国内市場の過半を占めています。2021年、両社は共同出資の商船設計・営業会社「日本シップヤード(NSY)」を設立しました。今治造船が51%、JMUが49%の株式を保有しており、NSYは国内商船の設計・受注の司令塔として機能しています。

造船所特徴
今治造船国内建造量1位。ばら積み船・タンカーで業界トップ
JMU(ジャパンマリンユナイテッド)国内2位。大型商船・タンカー建造
大島造船所長崎県。三菱重工から香焼工場を買収し拡大中
名村造船所国内4位。佐賀県伊万里に主力ドック
新来島どっく国内5位。瀬戸内に複数ドック
常石造船広島県福山市。ばら積み船・コンテナ船

世界受注シェアの推移[2]

日本韓国中国欧州
201821%44%22%3%
202016%27%47%2%
202218%30%44%1%
20248%16%71%2%

中国が2024年に受注シェア71%を占め[2]日本は8%まで縮小しました(単年受注量ベース)[2]中国のシェア拡大は、LNG船や大型コンテナ船の量産体制を確立したことが大きく、日本の船主が中国に発注する割合も約4割に達しています[4]

商船建造と艦艇建造 — 二つの柱

日本の造船業は商船(民間)艦艇(防衛)の二本柱で構成されています。

区分主な船種主要企業
商船ばら積み貨物船・タンカー・コンテナ船・LNG船・自動車運搬船今治造船・JMU・常石造船・大島造船所
艦艇護衛艦・潜水艦・掃海艇・巡視船三菱重工(長崎・神戸)・川崎重工(神戸)・JMU(横浜)

主要造船所一覧

商船系

造船所所在地主な建造船種特記事項
今治造船 本社愛媛県今治市ばら積み船・タンカー・コンテナ船国内建造量1位。グループ全体で年間70隻超
今治造船 丸亀事業所香川県丸亀市大型商船大型建造ドック保有
ジャパンマリンユナイテッド(JMU)広島県呉市大型商船・タンカー日本海軍工廠の流れ
JMU 舞鶴京都府舞鶴市艦艇修繕・洋上風力設備商船新造から撤退後、艦艇ライフサイクル事業と洋上風力発電設備の製造拠点に転換
常石造船広島県福山市ばら積み船・コンテナ船フィリピン中国にも造船所を展開
大島造船所長崎県西海市ばら積み貨物船三菱重工から香焼工場(国内最大級ドック)を買収し建造能力を大幅拡大中
名村造船所佐賀県伊万里市ばら積み船・タンカー国内4位。函館どつく(北海道)も傘下
新来島どっく愛媛県今治市ほかばら積み船・ケミカルタンカー国内5位。瀬戸内に複数ドック
新潟造船新潟県新潟市巡視船・官公庁船中小型船に特化

艦艇・防衛系

造船所所在地主な建造船種特記事項
三菱重工 長崎造船所長崎県長崎市護衛艦・大型艦艇旧海軍の戦艦「武蔵」建造の歴史
三菱重工 神戸造船所兵庫県神戸市潜水艦川崎重工と交互に年1隻建造
川崎重工 神戸工場兵庫県神戸市潜水艦三菱重工と交互に年1隻建造
三菱重工マリタイムシステムズ 玉野岡山県玉野市護衛艦・官公庁船2021年に三井E&Sから艦船事業を譲受
JMU 横浜事業所神奈川県横浜市護衛艦・掃海艇旧IHIマリンユナイテッド

日本の潜水艦は三菱重工と川崎重工が1年交替で建造するユニークな体制をとっており、技術の継続性と産業基盤の維持を両立しています。

瀬戸内海造船クラスター

瀬戸内海沿岸には今治造船・常石造船・JMU呉・三井E&S玉野・今治造船丸亀など主要造船所が密集しています。この集積には以下のような要因があります。

  • 穏やかな海象: 瀬戸内海は波が小さく、進水・試運転に適している
  • 舶用機器メーカーの集積: エンジン・プロペラ・舵・甲板機器などのサプライヤーが近隣に立地
  • 熟練労働力: 戦前からの造船の歴史に基づく技能者の蓄積
  • 瀬戸内海連携の加速: 近年は今治造船を中心に、JMUとの共同出資(NSY)など業界再編が進行中
  • 海事都市今治: 造船所だけでなく、日本最大の外航船主(オーナー)が今治に集積。「作る側」と「買う側」が至近距離にあるため、仕様の擦り合わせや迅速な意思決定が可能

造船業の構造変化

1950〜70年代 世界1位 タンカーブーム
1980〜2000年代 [韓国](/rule/asia/korea/)に首位譲渡 再編・統合
2010年代〜 [中国](/rule/asia/china/)が首位に [日本](/rule/asia/japan/)は3位
現在 高付加価値船にシフト LNG船・艦艇・環境規制対応船

歴史的背景

出来事
1956日本が世界最大の造船国に。タンカー需要で急成長
1973第1次石油危機。タンカー需要が激減し、造船不況に突入
1980年代韓国(現代・大宇・三星)が台頭。日本は世界2位に
2002JFE系の造船部門を統合しユニバーサル造船設立
2010年代中国が建造量で世界1位に。日本は3位に後退
2013ユニバーサル造船とIHIマリンユナイテッドが合併しJMU設立
2021今治造船とJMUが資本業務提携。国内造船の再編が加速
2024三井E&Sが商船建造から事実上撤退。港湾クレーン・舶用エンジンに注力。世界受注シェア8%に低下
2025日米造船協力MOU締結(10月)。造船業再生ロードマップ策定[2]

ゼロエミッション船への転換[5]

IMO(国際海事機関)は2050年のGHG排出ゼロを目標に掲げており、日本は次世代燃料船の開発で世界をリードしようとしています。

燃料時期主な動き
LNG現在~すでに商用運航中。CO2約25%削減
アンモニア2026年実証→2028年商用目標ジャパンエンジンが2023年5月にアンモニア混焼試験に成功しました
水素2027年実証→2030年以降容積が重油の4.5倍という課題があります。異常燃焼(ノッキング)への対応が必要です

グリーンイノベーション基金から次世代船舶開発に投資されています[6]

造船業再生ロードマップ(2035年目標)[2]

政府は2024年の建造量約900万GTから[3]2035年に1,800万GT(倍増)を目標とするロードマップを策定しました[3]

Phase 1 2026〜2028 DX・AI導入、日米協力開始
Phase 2 2029〜2031 1〜3グループに統合、設備増強
Phase 3 2032〜2035 1,800万GT体制・次世代船リーダー

主な施策は以下の通りです:

  • コスト10%削減日本中国に対し約20%のコスト劣位です[2]
  • 建造能力50%増(設備拡張・新ドック建設)
  • 生産性25%改善(自動溶接ロボット・3D設計データによる建造管理・AI工程最適化の実装が進行中です)
  • 業界再編(1~3グループへの統合を検討しています。NSYによる設計一元化が先行事例です)

日米造船協力MOU(2025年10月締結)[2]

日米両国は造船能力の強化に向けた覚書(MOU)を締結しました。経済安全保障上重要な船舶(LNG船・安保関連船舶)の建造能力確保や、AI・ロボット技術の共同開発、人材交流を推進しています。

関連企業の時価総額マップ

造船・重工および海運に関わる主要上場企業の時価総額を可視化しました。

造船・重工海運

※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。

企業 証券コード 事業概要・造船との関連 決算情報 配当履歴
■ 大手造船・重工
三菱重工業 長崎造船所で護衛艦・大型艦艇、神戸造船所で潜水艦を建造。LNG船やLPG船など民間船舶も手がける総合重工。防衛・エネルギー・航空宇宙・環境プラント事業が収益の柱。
川崎重工業 神戸工場で潜水艦を三菱重工と交互に建造。LNG船・コンテナ船などの民間船舶建造も実施。二輪車(Ninja等)・航空機・水素・鉄道車両も手掛ける多角経営。
IHI 航空エンジン(GE・P&W向け)と舶用ターボチャージャーが収益の柱。旧石川島播磨重工業。JMU(ジャパンマリンユナイテッド)の主要出資母体で造船業との関係が深い。
■ 中堅・専業造船
名村造船所 国内建造量4位。佐賀県伊万里に主力ドック。函館どつく(北海道)も傘下。ばら積み船・LNG船・LPG船など幅広い船型を建造。中堅造船の代表的企業。
■ 船主・海運
日本郵船 外航海運最大手。コンテナ船・自動車運搬船・LNG船を運航。ONE(コンテナ)の主要株主。
商船三井 LNG船・ドライバルク船に強み。不定期船(ばら積み)事業が収益の柱。
■ 港湾クレーン・重機
三井E&Sホールディングス かつて造船業の中核企業。商船・艦船建造から撤退し、港湾クレーン(世界シェア上位)・舶用ディーゼルエンジン製造に特化転換。造船業の川上産業として重要。
■ 舶用機器・エンジン
古野電気 舶用電子機器(レーダー・GPS・ソナー・魚群探知機)の世界的メーカー。商用船・漁業用・防衛用機器も供給。船舶の安全航行と運航効率化を支える。
東京計器 舶用ジャイロコンパス・オートパイロット・自動操舵装置などの航海計器の大手。防衛・航空機向け機器も製造。船舶の自動化に必須の機器を供給。
ジャパンエンジンコーポレーション 大型舶用2ストロークディーゼルエンジンの大手メーカー。MAN Energyソリューション(ドイツ)と提携。世界初のアンモニア混焼試験に成功(2023年)し脱炭素燃料対応を先導。
阪神内燃機工業 中・大型舶用ディーゼルエンジンの専業メーカー。内航船・フェリー向けエンジンに強み。小型LNG船向けエンジンも供給。日本の内航海運を支える。
ダイハツディーゼル 舶用中速ディーゼルエンジン・発電機関の大手。外航船・内航船・港湾用機械など幅広いニーズに対応。DAIHATSU ブランドで世界的認知を有する。
ニッチツ 貨物船のハッチカバーで日本トップシェア。防水仕切り弁・コンテナ搭載機器など船舶の甲板機器専業メーカー。造船業の重要なサプライヤー。

参考文献

参考文献・出典

  1. [1] 国土交通省 海事局「海事レポート」PDF
  2. [2] 国土交通省 海事局「造船業の現状と再生ロードマップ」(2026年1月)PDF
  3. [3] 国土交通省「造船業の再生に向けたロードマップ」PDF
  4. [4] 国土交通省「船舶産業を取り巻く現状」PDF
  5. [5] 経済産業省「造船に関する参考資料」(2024年12月)PDF
  6. [6] NEDO グリーンイノベーション基金事業「次世代船舶の開発」プロジェクト https://green-innovation.nedo.go.jp/project/development-next-generation-vessels/progress/