日本の非鉄金属製錬

別子・日立・小坂・直島 — 鉱山町から世界の都市鉱山リサイクル拠点へ

日本の非鉄金属製錬とは

三菱マテリアル直島製錬所
香川県直島に立地する三菱マテリアル直島製錬所。江戸時代の別子銅山に由来する非鉄金属製錬の伝統を継ぎ、現在は銅製錬と都市鉱山リサイクル(E-Scrap処理)の世界的拠点となっています。
画像: ブルーノ・プラス / Wikimedia Commons (CC BY 4.0)

日本は鉱石(精鉱)を輸入し、国内で銅・亜鉛・鉛・ニッケルなどに製錬する「精鉱輸入・精錬輸出」型 の構造を持っています。明治期から昭和半ばまでは国内の鉱山が主要な原料供給源でしたが、1970年代までに大半の金属鉱山が閉山し、現在ではほぼ全量を海外鉱石に依存しています[1]

それでも日本の非鉄製錬産業は、世界最高水準の歩留まり・複雑鉱処理能力・副産物(金・銀・PGM・レアメタル)回収技術 を背景に、銅製錬で世界的な存在感を維持しています。さらに近年は、廃電子基板(E-Scrap)から貴金属を回収する「都市鉱山」リサイクル の世界的拠点としても注目されています[2]

約187万トン/年(世界第2位)[1]
国内電気銅生産能力
5か所(東予・佐賀関・玉野・小名浜・直島)
国内主要銅製錬所
約16万トン/年(グループ世界最大級)[2]
三菱マテリアル直島 E-Scrap処理
283年(1691〜1973年)[3]
別子銅山 操業期間

主要銅製錬所

製錬所所在地運営企業特徴
東予製錬所愛媛県西条市住友金属鉱山自溶炉を採用した世界最高水準の銅製錬所。年間約45万t規模[4]
佐賀関製錬所大分県大分市パンパシフィック・カッパー(JX金属・三井金属の合弁)国内最大規模の銅製錬所。年間約45万t規模[5]
玉野製錬所岡山県玉野市パンパシフィック・カッパー旧日比共同製錬。年間約20万t[5]
小名浜製錬福島県いわき市小名浜製錬(JX金属系)1963年操業開始。リサイクル原料処理にも特化[5]
直島製錬所香川県直島町三菱マテリアル銅製錬と E-Scrap リサイクルの複合拠点。世界最大級のE-Scrap処理能力[6]

主要亜鉛・鉛・ニッケル製錬所

鉱種製錬所所在地運営企業備考
亜鉛秋田製錬所秋田県秋田市DOWAホールディングス国内最大級の電気亜鉛生産拠点。年産約20万t[7]
亜鉛・鉛小坂製錬秋田県小坂町DOWAホールディングス旧鉱山から複雑鉱処理・リサイクル拠点へ転換[7]
亜鉛八戸製錬青森県八戸市三井金属鉱業国内有数の電気亜鉛拠点[8]
亜鉛・鉛神岡鉱業岐阜県飛騨市三井金属鉱業(神岡鉱業)旧神岡鉱山由来。現在はリサイクル原料処理が中心[8]
亜鉛安中製錬所群馬県安中市東邦亜鉛2024年12月発表の事業再生計画により、亜鉛製錬事業からの撤退方針が示された[9]
ニッケルニッケル工場愛媛県新居浜市住友金属鉱山フィリピン・ニューカレドニアからの鉱石を処理。EV電池材料の前駆体(NCA・NMC)も製造[10]

歴史的四大銅山

明治〜昭和期の日本経済を支えた四大銅山は、現在いずれも閉山しているか、リサイクル拠点へと役割を変えています。

出来事
1610足尾銅山が開山(栃木県)。江戸幕府の御用銅山として発展
1691別子銅山が開坑(愛媛県新居浜)。住友家が283年にわたり経営[3]
1884藤田組(現DOWA)が小坂鉱山を払下げで取得。鉱床転換に成功
1891田中正造が足尾鉱毒事件を国会で告発。日本初の公害問題に
1905久原房之助が日立鉱山を買収。久原鉱業(後の日本鉱業→JX金属)の起点に
1973足尾銅山閉山(363年)
1973別子銅山閉山(283年)。住友金属鉱山は東予に新製錬所を建設し継承
1981日立鉱山閉山(76年)
2008小坂製錬がリサイクル拠点として再生。E-Scrap処理を本格化

別子銅山(住友・愛媛県新居浜市)

別子銅山は1691年に住友家が開発を開始した、日本を代表する銅山です[3]。閉山までの283年間で約65万トンの銅を産出し、住友財閥の原点となりました。閉山後も住友金属鉱山は東予製錬所(西条市)を1971年に建設し[4]、海外鉱石を使った銅製錬を継続しています。新居浜には住友化学・住友重機械工業など住友グループ各社の主力工場が今も集積しています。

足尾銅山(古河・栃木県)

足尾銅山は1610年開山の歴史を持ち[1]、明治期に古河市兵衛が近代化に成功しました。一方、煙害と鉱毒水で渡良瀬川流域に深刻な公害を引き起こし、田中正造の告発で日本初の公害問題となりました。1973年閉山[1]

日立鉱山(久原房之助・茨城県)

久原房之助が1905年に買収し[1]、近代経営の手本となりました。鉱山の煙害対策として建設された「日立大煙突」(1915年完成、当時世界一の高さ155m)は、現在も日立市のシンボルとして残っています。日立鉱山は後の日立製作所創業の母体ともなりました。1981年閉山[1]

小坂鉱山・小坂製錬(DOWA・秋田県)

小坂鉱山は1884年に藤田組(現DOWAホールディングス)が払い下げを受けたあと[7]、煙害を起こす黒鉱(複雑硫化鉱)の処理技術で世界的な評価を得ました。鉱山は1990年に閉山しましたが[7]小坂製錬は世界に先駆けて E-Scrap・廃電子基板リサイクル拠点へと転換し、現在でも金・銀・銅・PGM・レアメタルなどを回収し続けています[7]

都市鉱山リサイクル — 直島・小坂・佐賀関

廃電子基板(E-Scrap)には、自然界の鉱石を遥かに上回る濃度で金・銀・銅・PGMが含まれているため、「都市鉱山」と呼ばれます。日本の銅製錬所はこの都市鉱山を世界中から集めて処理する拠点として国際的に認知されています[2]

拠点運営企業主な処理
直島製錬所三菱マテリアルE-Scrap年間約16万トン処理(グループ世界最大級)。2030年度までに約24万トンへ拡大計画[2]
小坂製錬DOWA黒鉱処理技術を応用した複雑硫化鉱・E-Scrapの処理[7]
佐賀関製錬所パンパシフィック・カッパー(JX金属)銅製錬と組み合わせた E-Scrap・銅二次原料処理[5]

直島の三菱マテリアル製錬所は、世界の E-Scrap 発生量(年約80万トン)のうち[2]グループ全体で約20%相当を処理 しているとされ、世界の都市鉱山リサイクルの中心拠点となっています[2]。2030年度には処理能力を約24万トンに拡大し[2]、さらなる役割強化を予定しています。

銅製錬能力と都市鉱山リサイクルの可視化

国内5大銅製錬所の電気銅生産能力(合計約187万t/年)
E-Scrap(都市鉱山)リサイクル処理の構造

※ 銅製錬能力は各社IR・JOGMEC資料に基づく推定[1]。E-Scrap処理は三菱マテリアルIR[2]等を参考。

関連企業の時価総額マップ

非鉄製錬・リサイクル事業を手がける主要上場企業の時価総額を可視化しています。

素材・化学鉄鋼電子部品

※ 面積は時価総額(概算)に比例しています。2023~2024年頃の株価をベースにした概算値であり最新の株価は反映していないので注意してください。

企業 証券コード 事業概要 決算情報 配当履歴
■ 銅製錬・電池材料
住友金属鉱山 住友グループを代表する非鉄製錬企業。東予製錬所(銅年産45万t)と新居浜ニッケル工場を保有し、銅・亜鉛・ニッケルの国内主要供給者。電池正極材(NCA/NMC)でEV市場にも対応。海外の銅・金・銀・ニッケルプロジェクトでも世界的存在感を持つ[10]
三菱マテリアル 直島製錬所(香川県)を中核に、銅製錬とE-Scrapリサイクルで世界最大級の処理拠点を運営。グループ全体で年間16万トンのE-Scrap処理能力を有し、世界の都市鉱山リサイクルで指導的地位。電子材料・銅加工事業も展開し、複合産業体として非鉄精錬業界をリード[2]
JX金属 2025年3月東証プライム上場(ENEOSグループから分社化)。傘下のパンパシフィック・カッパー(PPC)で佐賀関・玉野の銅製錬拠点(年産約65万t)を運営し、国内銅製錬の中核。スパッタリングターゲットで世界シェア6割超を占める電子材料大手としても位置付けられている[11]
■ 亜鉛・鉛・電子部材
三井金属鉱業 八戸製錬(青森県)で国内有数の電気亜鉛年産を、神岡鉱業(岐阜県・旧鉱山由来)でリサイクル原料処理を展開。極薄銅箔(マイクロシン)で世界シェア首位を確保し、EV用銅箔でも主力メーカーの地位を保有。電子部品・金属加工で高付加価値事業を展開[8]
DOWAホールディングス 小坂製錬(秋田県)と秋田製錬(年産20万t超)を中核に展開。黒鉱(複雑硫化鉱)処理とE-Scrapリサイクルで世界的技術力を保有。環境管理・廃棄物処理とともに金属回収事業を統合し、サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルで国内リサイクル業界を牽引[7]
東邦亜鉛 安中製錬所(群馬県)を中心とする亜鉛・鉛製錬企業。戦後の急速な経済成長期に国内亜鉛製錬の一翼を担ってきた。しかし2024年12月発表の事業再生計画により、採算性の課題から亜鉛製錬事業からの撤退を表明[9]
■ 電線・ケーブル・非鉄加工
住友電気工業 住友グループの電線・ケーブル大手。光ファイバー・電力ケーブル・自動車配線・電子部品で国際競争力を保有。銅やアルミなどの非鉄金属を加工した高機能材料・製品で世界市場で指導的地位を占める。エネルギー・モビリティ転換の主要サプライヤー[12]
古河電気工業 古河グループの電線・ケーブル・電子材料大手。光ファイバー・電力ケーブル・自動車部品・プリント配線板で国際競争力を発揮。銅・アルミなどの非鉄金属の製錬・加工から電線・製品までの一貫生産体制を構築。スマートグリッド・自動運転向け製品開発を推進[13]
フジクラ 古河グループ系の電線・光ファイバー・電子部品メーカー。自動車配線・産業用ケーブルで国内有数のシェアを保有。高周波ケーブル、通信用光ファイバーなど高機能製品で市場リーダー。EV・自動運転向けの電子部品・配線システムで成長[14]
■ 非鉄加工・めっき等
日本製線 非鉄金属線・電線・鋼線の製造販売で国内有数メーカー。銅線・アルミ線・ステンレス線など各種素材で高いシェアを保有。自動車・建設・電力・電子機器向けに多様な仕様で対応。自動車業界のEV化、脱炭素化に対応する機能線の開発を推進[15]
アサコ鍍金 表面処理(めっき・化学処理)業界の大手メーカー。電子部品・自動車・建築部材向けに各種高機能めっき膜を供給。自動車の軽量化、EV化に対応した新素材(アルミ、マグネシウム)のめっき技術で市場をリード[16]

参考文献・出典

  1. [1] 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「金属資源情報」https://mric.jogmec.go.jp/
  2. [2] 三菱マテリアル株式会社「E-Scrap事業」https://www.mmc.co.jp/corporate/ja/02/02-01.html
  3. [3] 住友グループ広報委員会「別子銅山」https://www.sumitomo.gr.jp/history/besshidouzan/
  4. [4] 住友金属鉱山株式会社「東予工場」https://www.smm.co.jp/corp_info/location/domestic/toyo/
  5. [5] パンパシフィック・カッパー株式会社「会社案内」https://www.ppcu.co.jp/company/
  6. [6] 三菱マテリアル株式会社 直島製錬所https://www.mmc.co.jp/naoshima/
  7. [7] DOWAホールディングス株式会社「製錬事業」https://hd.dowa.co.jp/ja/product/metalmine.html
  8. [8] 三井金属鉱業株式会社「事業紹介」https://www.mitsui-kinzoku.com/business/
  9. [9] 東邦亜鉛株式会社「事業再生計画について」https://www.toho-zinc.co.jp/news/
  10. [10] 住友金属鉱山株式会社「会社情報」https://www.smm.co.jp/corp_info/
  11. [11] JX金属株式会社「会社情報」https://www.jx-nmm.com/company/
  12. [12] 住友電気工業株式会社「会社情報」https://www.sei.co.jp/company/
  13. [13] 古河電気工業株式会社「会社情報」https://www.furukawa.co.jp/company/
  14. [14] 株式会社フジクラ「会社情報」https://www.fujikura.co.jp/company/
  15. [15] 日本製線株式会社「会社情報」https://www.nihonseisen.co.jp/
  16. [16] アサコ鍍金株式会社「会社概要」https://www.asaco-plating.co.jp/
  17. Wikipedia「小坂鉱山」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%9D%82%E9%89%B1%E5%B1%B1